強迫性障害(強迫症)とは
強迫性障害(強迫症:OCD)とは、自分でも不合理だとわかっているのに、ある考えやイメージが頭から離れず(強迫観念)、それを打ち消すために特定の行動を何度も繰り返してしまう(強迫行為)状態が続き、日常生活に大きな支障をきたす病気です。
きっかけははっきりしないことも多いですが、ストレスや生活環境の変化、完璧主義的な性格傾向が関連することがあります。はじめは軽い不安や確認行為であっても、繰り返すうちに症状が強まり、何時間も儀式的な行動に費やすようになることがあります。
強迫症は人口の約1〜2%に見られるとされ、決して珍しい病気ではありません。「わかっているのにやめられない」というのは意志の弱さではなく、脳の機能的な問題が背景にあると考えられています。適切な治療により症状のコントロールが可能で、多くの方が日常生活を取り戻せます。ただし放置すると慢性化し、うつ病を併発することもあるため、早めの受診が重要です。
こんな症状でお困りではありませんか?
強迫症にはさまざまなタイプがありますが、共通するのは「頭から離れない考え(強迫観念)」と「やめたくてもやめられない行動(強迫行為)」の繰り返しです。
| タイプ | 強迫観念(頭から離れない考え) | 強迫行為(やめられない行動) |
|---|---|---|
| 汚染・洗浄 | 汚れや菌、ウイルスに汚染されるのではないかという恐怖 | 何度も手を洗う、入浴に何時間もかかる、ドアノブや手すりに触れない |
| 確認 | 鍵をかけ忘れた、ガスを消し忘れたのではないかという不安 | 何度も戻って確認する、写真を撮って確認する、確認に何十分もかかる |
| 加害恐怖 | 誰かを傷つけてしまうのではないか、車で人を轢いたのではないかという考え | 何度も来た道を戻って確認する、ニュースを確認する、刃物を隠す |
| 対称性・正確性 | 物の配置が左右対称でないと気持ち悪い、完璧に整っていないと落ち着かない | 物を何度も並べ直す、書き直す、やり直す |
| 縁起・数字 | 特定の数字や手順を守らないと悪いことが起きるという恐怖 | 特定の回数だけ動作を繰り返す、決まった手順を厳密に守る |
| 溜め込み | 物を捨てると取り返しのつかないことになるという不安 | 不要な物を捨てられず、生活空間が圧迫される |
上記は代表的なタイプですが、これ以外にもさまざまな形で症状が現れます。また、複数のタイプを同時に持っている方も多くいらっしゃいます。
強迫症の悪循環
強迫症が長引く背景には、以下のような悪循環があります。
| ① 強迫観念が浮かぶ |
| ↓ |
| 「汚れているかもしれない」「鍵をかけ忘れたかもしれない」などの考えが浮かび、強い不安を感じる |
| ↓ |
| ② 強迫行為をする |
| ↓ |
| 手を洗う、確認に戻るなどの行為をすると、一時的に不安が和らぐ |
| ↓ |
| ③ 不安が一時的に和らぐが、すぐにまた不安が戻る |
| ↓ |
| 「まだ不十分かもしれない」と感じ、強迫行為がエスカレートしていく |
強迫行為をすることで一時的に安心できますが、それは脳に「この行為は必要だ」と学習させてしまうことになります。結果として、回数が増え、時間が延び、より精巧な儀式を求めるようになり、症状が悪化していきます。この悪循環を断ち切ることが治療の鍵です。
当院での治療について
強迫症の治療は、認知行動療法的アプローチと薬物療法を柱として進めていきます。患者さんの症状の程度やご希望に応じて、治療法を一緒に考えます。
1. 曝露反応妨害法(ERP)の考え方
強迫症に対する認知行動療法の中核となるのが、曝露反応妨害法(ERP:Exposure and Response Prevention)です。これは、不安を引き起こす状況にあえて身を置きながら(曝露)、強迫行為を行わずにいる(反応妨害)ことで、不安が自然に収まることを体験的に学んでいく方法です。
当院では、本格的な構造化されたERPセッションは行っておりませんが、診察の中でERPの考え方に基づいた助言を行い、日常生活の中で少しずつ実践していただくことを支援しています。
ERPのポイント
- 不安は時間が経てば自然に下がる(永遠に上がり続けることはない)
- 強迫行為をしなくても、恐れていた悪いことは起きない
- 最初はつらくても、繰り返すうちに不安が小さくなっていく
- 無理のない範囲で段階的に進めることが大切
2. 薬物療法
SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が強迫症に対する第一選択薬です。うつ病に用いる場合よりもやや高用量が必要とされることが多く、効果が現れるまでに8〜12週間かかることがあります。
| 薬剤 | 特徴 |
|---|---|
| フルボキサミン(ルボックス/デプロメール) | 強迫症に対して最も歴史のあるSSRI。保険適用あり。 |
| パロキセチン(パキシル) | 強迫症に対する保険適用あり。効果発現がやや早い傾向。 |
| セルトラリン(ジェイゾロフト) | 副作用が比較的少なく、忍容性が高い。 |
| クロミプラミン(アナフラニール) | 三環系抗うつ薬。SSRIで効果不十分な場合に検討される。効果は強いが副作用にも注意が必要。 |
★ 強迫症の薬物療法で大切なこと
強迫症に対するSSRIは、うつ病の場合と比べて効果が現れるまでに時間がかかります(8〜12週間)。「薬が効かない」と感じても、十分な期間・十分な用量を試す前に自己判断でやめてしまわないことが重要です。また、症状が改善した後も再発予防のため、1〜2年以上の服薬継続が推奨されます。
3. 併存症への対応
強迫症にはうつ病、不安障害、チック症、発達障害(ASD・ADHD)などが併存することがあります。強迫症状だけに注目するのではなく、併存する問題にも目を配りながら包括的に治療を行っていきます。
ご家族の方へ
強迫症の患者さんのご家族は、本人の強迫行為に巻き込まれて疲弊してしまうことが少なくありません。「一緒に確認してほしい」「手を洗ったか見ていてほしい」といった要求に応じることは、一時的には本人の不安を和らげますが、長い目で見ると症状を維持・悪化させてしまうことがあります。
ご家族としては、本人の苦しみに共感しつつも、強迫行為への協力(巻き込まれ行動)を徐々に減らしていくことが望ましいとされています。患者さんご本人の受診に付き添われる際に、ご家族からのご質問にもお答えします。
よくあるご質問
いいえ、強迫症は脳のセロトニン系の機能異常や、前頭葉-基底核回路の過活動が関与していると考えられている脳の病気です。几帳面な性格が関連することはありますが、性格だけで説明できるものではありません。「わかっているのにやめられない」のは、脳がそのような信号を出し続けているためです。
薬物療法とERP(曝露反応妨害法)の組み合わせにより、多くの方で症状が大幅に改善します。完全に症状がゼロになるとは限りませんが、「強迫的な考えが浮かんでも、振り回されずに生活できる」状態を目指すことは十分に可能です。治療には時間がかかることもありますが、粘り強く取り組むことが大切です。
加害恐怖は強迫症の代表的な症状のひとつです。このような考えが浮かぶこと自体が、あなたが実際に誰かを傷つける危険があるということではありません。むしろ、そのような考えに強い苦痛を感じ、恐れているということ自体が、あなたが人を傷つけたくないと思っている証拠です。この症状は治療で改善できますので、安心してご相談ください。
ご家族が本人の強迫行為に協力すること(一緒に確認する、安心させる言葉を繰り返すなど)は、善意であっても症状の維持につながることがあります。巻き込まれ行動への対応については、患者さんの診察時にご家族にも助言いたします。
はい、強迫症に対するSSRIは、うつ病に使用する場合(2〜4週間)と比べて効果発現に時間がかかり、8〜12週間程度かかることがあります。また、十分な効果を得るためにやや高用量が必要になることもあります。効果が出るまでの期間は焦らず、主治医と相談しながら継続してください。
はい、強迫症で継続的な通院が必要な場合、自立支援医療(精神通院医療)の対象となります。適用されると医療費の自己負担が3割から1割に軽減されます。強迫症は治療期間が長くなることが多いため、積極的なご利用をお勧めしています。詳しくは診察時にご相談ください。
「わかっているのにやめられない」のは意志の弱さではなく、脳の機能的な問題です。強迫性障害はSSRIを中心とした薬物療法で改善が期待できます。お困りの方はご相談ください。
当院は完全予約制です。初診のご予約については「初診の方へ」のページをご覧ください。