注意欠如・多動症(ADHD)について
ADHD(Attention Deficit Hyperactivity Disorder:注意欠如・多動症)は、生まれつきの脳機能の発達の偏りにより、年齢に見合わない「不注意さ」や「多動性・衝動性」が持続的にみられる状態です。これらの特性により、日常生活や社会生活に支障をきたすことがあります。
症状は幼少期から現れ、多くは学齢期に気づかれますが、大人になってから初めて診断されるケースも少なくありません。子どもの頃は「落ち着きがない子」「うっかりが多い子」で済んでいたことが、社会に出て仕事の責任が増え、自分で段取りを組む場面が増えることで、初めて困りごとが顕在化することがあります。
ADHDは本人の努力不足や性格の問題ではなく、脳の神経伝達物質(主にドーパミンやノルアドレナリン)の機能的な偏りが背景にあると考えられています。適切な診断と治療により、困りごとが軽減し、生活の質が大きく向上する可能性があります。
こんなことでお困りではありませんか?
不注意の症状
- 仕事や家事でケアレスミスが多く、何度気をつけても繰り返してしまう
- 会議や人の話を聞いているつもりでも、途中で頭の中が別のことに飛んでしまう
- やるべきことを先延ばしにしてしまい、締め切りに追われることが多い
- 忘れ物・失くし物が多く、鍵・財布・スマートフォンをよく探している
- 複数のタスクの優先順位がつけられず、何から手をつけていいかわからなくなる
- 細かい作業や書類仕事が極端に苦手で、なかなか取りかかれない
多動性・衝動性の症状
- 会議中やデスクワーク中にじっとしていられず、そわそわしてしまう
- 相手の話を最後まで聞けずに、つい話し始めてしまう
- 順番待ちが苦手で、待っている間にイライラする
- 思いついたことをすぐ口にしてしまい、後悔することがある
- 衝動的な買い物や決断をしてしまうことがある
- 頭の中がいつも騒がしく、リラックスするのが難しい
大人のADHDでは、子どもの頃のような「走り回る」多動は目立たなくなる一方で、不注意症状が前面に出ることが多くなります。また、長年にわたって困難を抱え続けた結果、うつ病や不安障害、睡眠障害を併存している方も多く、そちらの症状で受診されて初めてADHDに気づかれることもあります。
ADHDの3つのタイプ
| タイプ | 特徴 |
|---|---|
| 不注意優勢型 | 集中力の維持が難しく、ケアレスミスや忘れ物が目立つ。大人のADHDで最も多いタイプ。女性に多い傾向がある。 |
| 多動性・衝動性優勢型 | じっとしていられない、思いついたらすぐ行動してしまうなどの症状が中心。大人では「頭の中の多動」として現れることも多い。 |
| 混合型 | 不注意と多動性・衝動性の両方がみられる。最も診断されやすいタイプ。 |
どのタイプに該当するかは一人ひとり異なります。また、年齢や環境の変化によって目立つ症状が変わることもあります。
大人になってからADHDに気づくということ
ADHDは生まれつきの特性ですが、子どもの頃に見過ごされたまま大人になっている方は決して珍しくありません。とくに以下のような方は、ADHDの可能性を一度検討してみてもよいかもしれません。
- 子どもの頃から「もっとしっかりしなさい」「なぜこんなミスをするの」と言われ続けてきた
- 努力しているのに同じ失敗を繰り返し、自分を責めてしまう
- 転職を繰り返している、または職場での人間関係に悩むことが多い
- 家事や片付けがうまくいかず、生活が乱れがちになる
- 自分の子どもがADHDと診断され、自分にも思い当たることが多い
ADHDの特性を長年「自分の努力不足」と感じてきた方が、診断を受けて「自分が悪いわけではなかった」と安堵されることは多くあります。診断そのものが、自分を理解し直すきっかけになることもあります。
当院での診断について
ADHDの診断は、問診を中心に、幼少期から現在までの生活歴・困りごとを丁寧にお聞きすることで行います。当院では以下のような流れで診断を進めます。
1. 初診時の問診
現在お困りのこと、いつ頃からどのような場面で困難を感じているか、学生時代の様子、仕事や日常生活への影響などを詳しくお伺いします。可能であれば、小中学校時代の通知表をお持ちいただくと診断の参考になります。
2. 心理検査
必要に応じて、ADHDに関連する評価尺度等を用いて症状の程度を客観的に評価します。
3. 他の疾患との鑑別
ADHDと似た症状を呈する疾患(うつ病、不安障害、双極性障害、甲状腺機能異常など)との鑑別も重要です。また、ADHDに他の精神疾患が併存していることも多いため、包括的な評価を行います。
当院での治療について
ADHDの治療は、本人の特性を理解し、生活しやすいように環境を整えることが基本です。当院では、環境調整・心理教育と薬物療法を組み合わせ、患者さんと話し合いながら治療を進めていきます。
1. 環境調整・心理教育
ADHDの特性を正しく理解することが、治療の第一歩です。自分がどのような場面で困りやすいかを把握し、それに応じた工夫を一緒に考えていきます。
- やるべきことをリスト化し、優先順位を「見える化」する
- スマートフォンのリマインダーやタイマーを活用する
- 集中しやすい環境を整える(机の周りの整理、イヤホンの活用など)
- 大きなタスクを小さなステップに分解する
- 物の定位置を決めて忘れ物を防ぐ
2. 薬物療法
環境調整だけでは十分な改善が得られない場合、脳内の神経伝達物質の働きを調整する薬物療法を検討します。薬物療法により、集中力の改善や衝動性のコントロールが期待できます。
| 薬剤名 | 特徴 |
|---|---|
| メチルフェニデート(コンサータ) | ドーパミンの再取り込みを阻害し、効果発現が比較的速い。登録医療機関でのみ処方可能。 |
| リスデキサンフェタミン(ビバンセ) | 体内で活性化されるプロドラッグ。効果が持続しやすい。登録医療機関でのみ処方可能。 |
| アトモキセチン(ストラテラ) | ノルアドレナリンの再取り込みを阻害。効果発現は緩やかだが、依存性がない。 |
| グアンファシン(インチュニブ) | α2Aアドレナリン受容体作動薬。多動・衝動性への効果があり、依存性がない。 |
★ 当院はコンサータ・ビバンセ処方登録医療機関です
メチルフェニデート(コンサータ)およびリスデキサンフェタミン(ビバンセ)は、登録を受けた医療機関でのみ処方が可能です。当院は処方登録医療機関ですので、適応のある方にはこれらの薬剤をご提供できます。
薬の選択は、症状のタイプ、生活パターン、併存症の有無などを考慮して、患者さんと話し合いながら決定します。薬を使うかどうかも含め、ご本人の意向を尊重しますので、まずは気軽にご相談ください。
3. 併存症への対応
ADHDには、うつ病、不安障害、睡眠障害、自閉スペクトラム症(ASD)などが併存していることが少なくありません。ADHDの治療だけでなく、併存する症状にも目を配りながら、包括的に治療を行っていきます。
よくあるご質問
はい、大人になってから初めて診断される方は多くいらっしゃいます。ADHDは生まれつきの特性ですが、子どもの頃は周囲のサポートや環境で補えていた方が、就職・結婚・育児などライフステージの変化をきっかけに困りごとが顕在化し、受診に至ることは珍しくありません。
必ずしもそうではありません。薬はあくまで症状を緩和するための手段であり、環境調整や対処スキルの習得と並行して使用します。生活上の工夫が身につき、困りごとが軽減してきた段階で、減薬や休薬を検討することもあります。治療のゴールは患者さんと一緒に考えていきます。
初診時には、現在の困りごとに加えて、幼少期の様子についてもお伺いします。可能であれば、小中学校時代の通知表(所見欄が参考になります)をお持ちください。お持ちでなくても診察は可能ですので、ご安心ください。
はい、ADHDとASDは併存することがあります。以前は同時に診断することが認められていませんでしたが、現在のDSM-5では両方の診断が可能です。当院では、併存の可能性も視野に入れながら丁寧に評価を行います。
はい、ADHDの治療で継続的な通院が必要な場合、自立支援医療(精神通院医療)の対象となります。適用されると医療費の自己負担が3割から1割に軽減されます。ADHDの薬は比較的高額なものもあるため、利用をお勧めしています。詳しくは診察時にご相談ください。
ADHDの症状により日常生活や社会生活に一定の制限がある場合、精神障害者保健福祉手帳の取得が可能な場合があります。手帳があると、税金の控除や公共交通機関の割引などの支援を受けることができます。初診から6か月以上の経過が必要です。ご希望の方は診察時にお申し出ください。
ADHDの特性を「生きづらさ」から「自分らしさ」へ
ADHDの特性は、困りごとの原因になる一方で、発想力の豊かさ、行動力の高さ、好きなことへの集中力といった強みにもなりえます。治療の目的は特性をなくすことではなく、困りごとを軽減しながら、自分の特性とうまく付き合っていける状態を目指すことです。
当院では、診断・薬物療法・環境調整の助言・社会資源の調整を通じて、そのお手伝いをいたします。
当院は完全予約制です。初診のご予約については「初診の方へ」のページをご覧ください。