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●心的外傷後ストレス症(PTSD: Post-Traumatic Stress Disorder)

目次

心的外傷後ストレス障害(PTSD)とは

心的外傷後ストレス障害(Post-Traumatic Stress Disorder: PTSD)は、生命を脅かすような出来事や重大な心理的外傷体験(トラウマ)に曝露された後に発症する精神疾患です。トラウマとなる出来事には、戦争、災害、事故、暴力被害(身体的・性的暴力)、生命を脅かす疾病の診断など、実際の死や重篤な危害に関わる経験が含まれます。

PTSDは単なる「強いストレス反応」ではなく、脳機能の変化を伴う明確な疾患単位であり、適切な治療が必要な医学的状態です。多くの場合、トラウマ体験後すぐではなく、数週間から数ヶ月経過してから発症することもあります。

主な症状

PTSDの症状は大きく4つのカテゴリーに分けられます:

1. 侵入症状(再体験)

  • 侵入的な記憶:トラウマ体験が不意に、繰り返し思い出される
  • フラッシュバック:トラウマ体験が今まさに起きているかのように感じる
  • 悪夢:トラウマに関連した恐ろしい夢を見る
  • トラウマを想起させる刺激に対する強い心理的・身体的反応

2. 回避症状

  • トラウマに関連した思考や感情を避ける
  • トラウマを想起させる人物、場所、会話、活動、物などを避ける

3. 認知と気分の陰性変化

  • トラウマの重要な側面を思い出せない
  • 自分、他者、世界に対する持続的で否定的な信念や期待
  • 持続的な陰性感情状態(恐怖、怒り、罪悪感、恥など)
  • 活動への関心や参加の著しい減退
  • 他者からの疎外感や分離感

4. 覚醒と反応性の著しい変化

  • 過敏さ(イライラ、怒りの爆発)
  • 自己破壊的・無謀な行動
  • 過度の警戒心
  • 極端な驚愕反応
  • 集中困難
  • 睡眠障害

これらの症状が1ヶ月以上持続し、社会的・職業的・対人的機能に著しい障害をもたらす場合にPTSDと診断されます。

経過と併存症

PTSDの自然経過は個人によって異なります:

  • 約3分の1の患者様は、適切な治療により数ヶ月以内に回復します
  • 約3分の1は、部分的な改善を示しながらも一部の症状が残存します
  • 約3分の1は、治療なしでは症状が慢性化し、長期にわたり持続します

PTSDには以下のような併存疾患がしばしばみられます:

  • うつ病
  • 不安障害
  • 物質使用障害(アルコール依存症など)
  • 身体症状症

エビデンスに基づく治療アプローチ

PTSDの治療は、薬物療法と心理療法を組み合わせた包括的アプローチが最も効果的です。

薬物療法

  • 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI):第一選択薬
    • セルトラリン、パロキセチンなど
    • 侵入症状、回避症状、過覚醒症状の緩和に有効
  • セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)
    • ベンラファキシンなど
  • その他の薬剤:個々の症状に応じて補助的に使用
    • α1アドレナリン受容体拮抗薬(プラゾシンなど):悪夢の軽減
    • 抗精神病薬(少量):重度の症状に対して

※ベンゾジアゼピン系抗不安薬は、依存のリスクや長期的治療効果の欠如から、PTSDに対しては推奨されていません。短期的な使用であっても慎重な検討が必要です。

心理療法

  • トラウマ焦点化認知行動療法(TF-CBT)
  • 持続エクスポージャー療法(PE):トラウマ記憶への段階的な曝露と処理
  • 認知処理療法(CPT):トラウマに関連した否定的な認知の修正
  • 眼球運動脱感作と再処理法(EMDR)
  • 両側性刺激(眼球運動など)を用いてトラウマ記憶の処理を促進
  • ナラティブエクスポージャー療法(NET)
  • 複雑性トラウマや多重トラウマに効果的

トラウマ直後の介入

  • デブリーフィング(トラウマ直後に体験を詳細に語らせる方法)は、現在では効果がないだけでなく、PTSDのリスクを高める可能性があるため推奨されていません
  • 代わりに、心理的応急処置(PFA: Psychological First Aid)が推奨されています:
  • 安全と安心感の提供
  • 安定化
  • 情報収集
  • 実際的な支援の提供
  • 社会的サポートとの連携
  • 対処に関する情報提供
  • 支援サービスとの連携

当院でのケア

当院では、PTSDに苦しむ患者様に対し、以下のような総合的なケアを提供しています:

  • 詳細な臨床評価と個別化された治療計画の策定
  • エビデンスに基づいた薬物療法
  • トラウマ焦点化心理療法
  • 睡眠障害、不安、抑うつなどの症状に対する対処法の指導
  • 必要に応じた専門的トラウマ治療機関との連携
  • 家族への心理教育と支援

PTSDは適切な治療により回復が期待できる疾患です。症状でお悩みの方は、ぜひご相談ください。早期介入により、より良い予後が期待できます。

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