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●強迫性障害(強迫症)
強迫性障害(OCD)とは
強迫性障害(Obsessive-Compulsive Disorder: OCD)は、強迫観念(obsession)または強迫行為(compulsion)、あるいはその両方が持続的に現れる精神疾患です。DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)では不安障害から分離され、強迫症および関連症群に分類されています。
強迫観念とは、自分の意思に反して侵入的に繰り返し浮かび、著しい不安や苦痛を引き起こす考え、衝動、イメージです。患者様は通常、これらの思考が非合理的であると認識していますが、抑制することが困難です。
強迫行為とは、強迫観念によって生じる不安を軽減するために行われる反復的な行動や精神的儀式です。具体例としては:
- 汚染恐怖に伴う過剰な手洗い
- 確認行為(ガス栓、戸締り、電気のスイッチなど)
- 対象物の整列や配置へのこだわり
- 心の中での数え上げや特定の言葉の反復
- 対称性や均等性へのこだわり
これらの症状により、患者様は1日あたり1時間以上を強迫行為に費やし、顕著な機能障害や著しい苦痛を経験します。典型的には発症年齢は思春期から成人早期(10代後半〜20代前半)ですが、小児期発症例も少なくありません。
症状の特徴と経過
強迫性障害の症候学的特徴として重要なのは、病識が保たれていることです。多くの患者様は自身の強迫観念や強迫行為が過剰または不合理であることを認識していますが(良好な病識)、それでも制御困難な状態に陥っています。ただし、一部の患者様では病識が乏しい場合もあります。
強迫症状には以下のような典型例があります:
- 汚染恐怖と洗浄強迫
- 確認強迫
- 加害恐怖(自分が他者を傷つけるのではないかという恐怖)
- 対称性へのこだわりと整列行為
- ためこみ(近年ではためこみ症として独立した疾患単位となる場合も)
- 不吉な考えや宗教的な強迫観念
リアシュランス・シーキング(安心保証の希求)も特徴的で、「大丈夫か」と家族や医療者に繰り返し確認を求める行動がみられることがあります。このため、家族も症状に巻き込まれることが少なくありません。
病態と原因
強迫性障害の病態には複数の要因が関与しています:
- 神経生物学的要因:脳内セロトニン系の機能異常、前頭前皮質-基底核回路の機能不全
- 遺伝的要因:一卵性双生児での一致率は約80-87%とされる
- 認知行動モデル:侵入思考の誤った解釈と過大評価、強迫行為による不安の一時的軽減が症状を維持
- 環境的要因:ストレスイベント、トラウマ体験が発症や増悪の契機となることがある
治療アプローチ
当院では、エビデンスに基づいた複合的アプローチで治療を行います:
薬物療法
- 第一選択薬:選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)
- フルボキサミン、セルトラリン、パロキセチン、エスシタロプラムなど
- 一般的な抑うつ症状への投与量より高用量が必要となることがある
- 補助薬:抗精神病薬の少量併用(難治例)
精神療法
- 曝露反応妨害法(ERP):認知行動療法の中核的技法
- 強迫観念の対象に段階的に曝されながら、強迫行為を行わないよう訓練
- 不安の馴化が生じ、症状が軽減
- 認知療法:強迫観念に対する認知の歪みを修正
重症・難治例への対応
- 複数の薬剤の組み合わせ
- 集中的認知行動療法プログラム
- 経頭蓋磁気刺激法(rTMS)などの新規治療法(他院との連携で対応)
治療には通常、数ヶ月〜数年の期間を要しますが、適切な治療により60-70%の患者様で有意な症状改善が期待できます。当院では患者様の症状特性や生活状況に合わせた個別化治療計画を立案いたします。
ご自身やご家族が強迫性障害の症状でお悩みの場合は、早期の受診をお勧めします。治療が早期に開始されるほど、良好な転帰が期待できます。