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●身体症状症・病気不安症(身体表現性障害)

目次

身体症状症とは

身体症状症(Somatic Symptom Disorder)は、身体的な症状に対する過度の思考、感情、行動を特徴とする精神疾患です。患者様は1つ以上の身体症状(腹痛、倦怠感、頭痛、歯痛、腰痛、四肢の痛みなど)によって著しい苦痛を感じ、日常生活に支障をきたしています。

DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)の診断基準では、以下の特徴が挙げられています:

  • 苦痛を伴う、または日常生活に著しい支障をきたす1つまたは複数の身体症状がある
  • 身体症状またはそれに関連する健康上の懸念について、過度の思考、感情、行動が認められる:
  • 身体症状や健康上の懸念に対する不釣り合いで持続的な思考
  • 身体症状や健康状態に関する持続的で強い不安
  • これらの症状や健康上の懸念に費やす時間と労力が過剰である

これらの症状が通常6ヶ月以上持続することが診断の目安となります。

身体症状症の患者様は、同じ症状に対して複数の医療機関を受診し(ドクターショッピング)、様々な検査を受けるものの、医学的には十分に説明できる身体的異常は認められないことが特徴です。例えば、腹痛を訴えて短期間のうちに何度も内視鏡検査を受けたり、歯痛を訴えて複数の歯科医院を受診し、大量の鎮痛薬を処方してもらったりするなどの行動がみられます。

病気不安症とは

病気不安症(Illness Anxiety Disorder)は、以前は心気症とも呼ばれていた疾患で、実際の身体症状がほとんどないか軽微であるにもかかわらず、重篤な疾患に罹患しているという強い不安や確信を特徴とします。

病気不安症の主な特徴は:

  • 重篤な病気にかかっているという過度の心配や恐怖
  • 顕著な身体症状は存在しないか、あっても軽度である
  • 健康に関する強い不安と過剰な警戒
  • 健康関連の行動の増加(過度な身体チェック、医学情報の検索など)または回避(病院への受診回避、疾病関連の情報回避など)

患者様は、様々な身体感覚や微細な体調の変化を重大な病気の証拠として解釈し、医師から「異常なし」と説明されても安心できないことが特徴です。例えば、軽微な頭痛を脳腫瘍の証拠と捉えたり、動悸を心臓病の兆候と考えたりします。

精神科での治療アプローチ

身体症状症・病気不安症の治療においては、以下のような包括的アプローチが重要です:

1. 身体疾患の除外と多職種連携

まず、実際の身体疾患の可能性を適切に評価することが重要です。内科、外科などの各診療科と連携し、必要な検査を行いながら、身体疾患を適切に除外していきます。当院では、患者様の身体症状の訴えを軽視せず、真摯に向き合いながら、各専門医と緊密に連携して診療を進めています。

2. 心理療法的アプローチ

  • 認知行動療法(CBT):症状に対する破局的な解釈や不適切な信念を修正し、より適応的な対処方法を学びます
  • マインドフルネスに基づく認知療法:身体感覚への過度の注目を減らし、受容的な態度を育みます
  • 支持的精神療法:安心感を提供し、ストレス要因の理解と対処を支援します

3. 薬物療法

身体症状症・病気不安症に特異的に推奨される薬物はありませんが、症状の性質や併存疾患に応じて以下の薬剤が検討されます:

  • 痛みが主症状の場合:SNRI(デュロキセチンなど)、SSRI
  • 不安症状が強い場合:SSRI、SNRI
  • 併存するうつ症状がある場合:抗うつ薬
  • 初期の不安症状の緩和:抗不安薬(短期間のみ)

4. 併存疾患の評価と治療

身体症状症・病気不安症の背後には、うつ病、パニック障害などの不安障害、外傷後ストレス障害、認知症などが存在する場合があります。これらの併存疾患を適切に評価し、必要に応じて治療することも重要です。

生活上のサポート

当院では、以下のような生活上のサポートも提供しています:

  • 症状管理のための自己ケア技法の指導
  • 過度な医療受診行動の適正化
  • 健康不安に対するより健全な対処法の習得支援
  • 家族を含めた心理教育
  • 必要に応じた医療機関・検査のコーディネート

身体症状症・病気不安症は、実際の身体的苦痛を伴い、日常生活に大きな影響を及ぼす疾患です。「気のせい」や「わがまま」ではなく、適切な治療が必要な医学的状態であることを当院では十分に理解し、患者様の苦痛に寄り添いながら、心身両面からのケアを提供いたします。

お困りの症状がございましたら、どうぞご相談ください。

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