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●うつ病

目次

うつ病(Major Depressive Disorder)

うつ病とは

うつ病は、持続的な抑うつ気分や興味・喜びの著しい喪失を主症状とする精神疾患です。一時的な気分の落ち込みとは異なり、DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)の診断基準では、特定の症状が2週間以上持続することが診断の要件となります。

うつ病では以下のような多様な症状が認められます:

精神症状:

  • 抑うつ気分
  • 興味・喜びの喪失(アンヘドニア)
  • 無価値感・罪責感
  • 集中力・思考力の低下
  • 希死念慮・自殺念慮

身体症状:

  • 睡眠障害(不眠、熟眠障害、過眠)
  • 精神運動制止または焦燥
  • 易疲労感・倦怠感
  • 食欲変化・体重変化
  • 身体的愁訴(頭痛、腰痛、消化器症状など)

病因・発症メカニズム

うつ病の発症には複合的な要因が関与しています:

環境要因: 喪失体験(大切な人やペットの死、別離)、人間関係の葛藤、環境変化(転居、進学、就職、転勤、異動)などの心理社会的ストレスが契機となることが多く認められます。

心理的要因: 完璧主義、責任感が強い、几帳面といった性格傾向を持つ方に発症リスクが高いとされています。

生物学的要因: 脳内神経伝達物質(セロトニン、ノルアドレナリン、ドパミンなど)の機能異常や受容体感受性の変化が関与していると考えられています。現在の生物学的研究からは、単一の神経伝達物質の異常というよりも、複数の神経伝達系の機能的バランスの崩壊が関与していることが示唆されています。

遺伝的要因: 第一度近親者にうつ病患者がいる場合、発症リスクが約40%上昇するとされています。一卵性双生児の一方が罹患している場合、他方が生涯のうちに発症するリスクは約70%とされています。

治療アプローチ

うつ病の治療は、急性期、継続期、維持期の3段階に分けて行われます:

急性期治療(症状の寛解を目標)

休養と環境調整: 精神的・身体的休息を十分に確保し、ストレス要因を軽減する環境調整が基本です。

薬物療法:

  • 選択的セロトニン再取込阻害薬(SSRI)
  • セロトニン・ノルアドレナリン再取込阻害薬(SNRI)
  • ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA)
  • 必要に応じて三環系・四環系抗うつ薬

薬物療法において重要な点は、効果発現までに2〜4週間を要すること、自己判断による中断は症状悪化のリスクがあることです。

精神療法:
認知行動療法(CBT)や対人関係療法(IPT)などのエビデンスに基づく精神療法が有効です。
また、笠原嘉先生の提唱する「小精神療法」も臨床的に有用性が高いアプローチです。

  1. うつ病は「病気」であり怠慢ではないことを患者・家族に説明する
  2. 急性期には十分な精神的休息を確保することの重要性を伝える
  3. 薬物療法の必要性と服薬継続の重要性を説明する
  4. 完全回復には通常3〜6ヶ月を要することを予め説明する
  5. 治療経過中の症状変動の可能性について説明する
  6. 自己破壊的行為を回避する重要性について合意を得る
  7. 治療終了までは重大な人生決断を延期するよう助言する

    (出典引用:笠原嘉「うつ病臨床のエッセンス」みすず書房)

継続期治療(16〜20週間)

急性期で寛解が達成された後、症状再発を防ぐため、同一の治療レジメンを継続します。

維持期治療

再発リスクが高い患者(3回以上のエピソード歴、慢性うつ病、残遺症状がある場合など)では、長期的な維持療法が推奨されます。

当院の治療方針

当院では、生物・心理・社会的要因を包括的に評価し、個々の患者様の症状プロファイル、重症度、生活背景に応じた個別化治療を提供しています。薬物療法と精神療法を適切に組み合わせ、科学的エビデンスに基づいた治療を実践しています。

うつ病は適切な治療により回復可能な疾患です。症状にお気づきの方は、早期の専門的介入が予後改善につながりますので、どうぞお早めにご相談ください。

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