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●双極性障害(双極症)
双極性障害(躁うつ病、双極症)とは
双極性障害(躁うつ病)は、気分が異常に高揚する躁状態と、深く落ち込むうつ状態を繰り返す慢性的な精神疾患です。この気分の波は通常の感情変化とは異なり、日常生活や対人関係、職業機能に大きな支障をきたすほど強いものです。
双極性障害は主に以下の2つのタイプに分類されます:
双極Ⅰ型障害
激しい躁状態(躁病エピソード)とうつ状態を繰り返します。躁状態では以下のような症状が見られます:
- 異常な気分の高揚、過剰なハイテンション
- 自尊心の肥大や誇大的な考え
- 睡眠欲求の減少(寝なくても疲れを感じない)
- 多弁、考えが次々と浮かぶ(観念奔逸)
- 注意散漫、目標志向性活動の増加
- 快楽追求的な衝動行動(浪費、無謀な投資、性的無分別など)
- 易怒性、攻撃性の増加
これらの症状は少なくとも1週間続き、入院治療が必要になるほど重篤なこともあります。
双極Ⅱ型障害
完全な躁状態に至らない軽躁状態と、うつ状態を繰り返します。軽躁状態では躁状態と同様の症状が見られますが、その程度は軽く、通常は日常生活に重大な支障をきたすほどではありません。ただし、うつ状態は双極Ⅰ型と同様に重症であることが多いです。
双極Ⅱ型は躁状態が激しくないため軽症に思われがちですが、実際には治療によるコントロールが難しく、再発率も高いとされています。うつ状態の期間が長く、軽躁状態は見過ごされやすいため、うつ病と誤診されることも少なくありません。
うつ状態の症状
双極性障害のうつ状態は、単極性うつ病(大うつ病性障害)と似た症状を示します:
- 抑うつ気分、興味・喜びの喪失
- 食欲・体重の変化
- 睡眠障害(不眠または過眠)
- 精神運動制止または焦燥
- 疲労感、無価値感
- 集中力の低下、決断困難
- 自殺念慮
混合状態
躁症状とうつ症状が同時に現れる状態を混合状態と呼びます。例えば、気分は落ち込んでいるのに活動性は増加している、といった矛盾した症状が見られます。この状態は自殺リスクが特に高いとされています。
発症と経過
双極性障害は通常、思春期から若年成人期(15〜25歳)に発症することが多く、最初の症状はうつ状態であることが一般的です。そのため、初期にはうつ病と診断されることが多く、正しい診断に至るまでに平均で8〜10年かかるという報告もあります。
原因
双極性障害の正確な原因は現時点では完全には解明されていませんが、以下の要因が関与していると考えられています:
- 遺伝的要因:双極性障害には強い遺伝的要素があり、一親等の血縁者に患者がいる場合、発症リスクは約10倍高まると言われています。
- 脳内生化学的要因:セロトニン、ノルアドレナリン、ドパミンなどの神経伝達物質のバランスの乱れが関与しています。
- 神経生物学的要因:脳の特定の領域(前頭前皮質、扁桃体など)の機能や構造の変化が見られることがあります。
- 環境的要因:ストレスフルな生活出来事、睡眠リズムの乱れなどが発症や再発のきっかけとなることがあります。
診断
双極性障害の診断は、詳細な病歴聴取と臨床症状の評価に基づいて行われます。特に重要なのは、過去に躁状態や軽躁状態を経験したことがあるかどうかです。
診断の際の課題:
- 最初の発症がうつ状態であることが多く、躁・軽躁エピソードが現れるまでうつ病と判断されがち
- 患者自身が躁状態を病的と認識していないことが多い
- 軽躁状態は特に見過ごされやすい
より正確な診断のためには、ご家族や友人など、患者さんの日常をよく知る方からの情報が非常に重要です。「いつもと違う」行動や気分の変化に気づいた場合は、診察時にその情報をお伝えいただくことが診断の助けになります。
治療について
双極性障害の治療は、急性期の症状コントロールと長期的な再発予防の両方を目指します。当院では主に以下のような治療を行っています:
薬物療法
双極性障害の基本的な治療は気分安定薬です。うつ状態であっても、単極性うつ病とは異なり、抗うつ薬の単独使用は避けることが一般的です。抗うつ薬は気分の不安定化や躁転(うつ状態から躁状態への急激な移行)を引き起こす可能性があるためです。
主な薬剤:
- 気分安定薬:
- リチウム(炭酸リチウム)
- バルプロ酸(デパケン®など)
- ラモトリギン(ラミクタール®)
- カルバマゼピン(テグレトール®)
- 非定型抗精神病薬:
- オランザピン(ジプレキサ®)
- クエチアピン(セロクエル®)
- アリピプラゾール(エビリファイ®)
- リスペリドン(リスパダール®)など
これらの薬剤を単独または組み合わせて使用し、気分の安定化を図ります。双極性障害は再発しやすい疾患であるため、症状が落ち着いた後も継続的な服薬が必要です。
定期的な血液検査の必要性
リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピンなどの気分安定薬を使用する場合は、定期的な血液検査が必要です。これらの薬は効果的な治療のためには適切な血中濃度を維持する必要があり、濃度が高すぎると副作用のリスクが高まり、低すぎると治療効果が得られません(血中濃度が低くても十分に効果が得られている場合は増量しません)。
検査の頻度:治療開始時や用量変更時には頻繁に(1〜2週間ごと)、状態が安定したら1〜3ヶ月ごとに血液検査を行います。
検査の内容:薬の血中濃度測定に加えて、肝機能、腎機能、血球数、電解質など、薬剤の影響を受ける可能性のある項目をチェックします。
注意が必要な症状:手の震え、めまい、ふらつき、吐き気、下痢、極度の眠気、発疹などの症状が現れた場合は、すぐに医師に相談してください。
心理社会的支援
- 疾患教育:双極性障害についての正しい知識と理解
- 生活リズムの調整:規則正しい睡眠・活動パターンの維持
- ストレス管理:ストレス要因の同定と対処法の習得
- 再発の早期サイン認識:症状悪化の前兆を把握する訓練
重症例の治療
薬物療法で十分な効果が得られない場合や、急速な症状改善が必要な重症例では、修正型電気けいれん療法(m-ECT)が選択肢となることがあります。これは全身麻酔下で行われる安全な治療法で、特に自殺リスクが高い場合や薬物治療抵抗性の症例で効果が期待できます。当院では実施していませんが、必要に応じてm-ECT実施可能な医療機関をご紹介いたします。
長期的な経過と予後
双極性障害は慢性疾患ですが、適切な治療と自己管理により、多くの患者さんが症状をコントロールし、充実した生活を送ることが可能です。治療の目標は以下の通りです:
- 急性期症状の改善
- 気分安定状態(寛解)の維持
- 再発予防
- 社会機能の回復と維持
症状が落ち着いた後も定期的な通院と服薬継続が重要です。特に服薬を自己判断で中止すると高い確率で再発するため、気分が安定している時こそ治療を継続することが大切です。
当院では、双極性障害の診断から長期的な維持療法まで、患者さん一人ひとりの状態に合わせた治療を提供しています。ご本人やご家族の気づきが早期診断・治療につながりますので、気になる症状がありましたら、どうぞお気軽にご相談ください。