●心的外傷後ストレス症(PTSD: Post-Traumatic Stress Disorder)

●心的外傷後ストレス障害(以後PTSD)とは

戦争、テロ、身体的暴力、性的暴力、天災、自動車事故など、生命を脅かすような恐ろしい出来事を直接体験、または直接目撃することにより、心に深い傷(トラウマ)を負うことによって生じる疾患です。リアルなトラウマ体験が差し込まれるように繰り返し思い出されるフラッシュバック症状が生じます。また、トラウマ体験を思い出させるような場所や人物、体験を徹底的に回避しようとするため、日常生活を普通に送ることができなくなります。恐怖、怒り、自己否定、社会からの疎外感など、ネガティブな物事の捉え方、感情が持続し、非常に苦痛を伴います。また、トラウマ体験に対し、常に心と身体が臨戦態勢を取っているため、常にピリピリと過敏な状態となり、イライラしやすく、極端に驚きやすくなったり、自暴自棄な行動に発展したり、集中困難、睡眠障害などが生じます。

このような症状が1ヶ月以上持続すると、PTSDと診断されます。時間の経過に伴い自然に症状が消えてゆくこともありますが、PTSDに罹患した患者様の3分の1は症状が慢性化します。また、物質使用障害の罹患リスクが高く、アルコールや違法薬物などの依存物質に依存しやすくなります。

●治療について

薬物療法では、抗うつ薬(SSRI)を用います。本疾患に関しては、依存状態に発展しやすいため、ベンゾジアゼピン系薬剤は慎重に使用する必要があります。

非薬物療法では、トラウマ体験に向き合いながら長期間かけて慎重に心理教育や治療セッションを行う持続曝露療法が推奨されています。

以前は、トラウマ体験直後に、その体験を詳しく思い出し説明してもらうことによりトラウマ体験を克服してもらうdebriefing(デブリーフィング)という試みが推奨されていたこともありました。しかし現在では無効であるだけでなくむしろ有害であることがわかってきました。最近では心理的応急処置(PFA: Psychological First Aid)と呼ばれる、自然な回復を援助してゆく方法が推奨されています。

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